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べんとう屋のつぶやき

 



その2





「いったいどこにおんねん。おっちゃんはロケやし・・。あっ・・今日はPJ・・
ま、まずはマネージャーに電話やな。」
車に乗りこみ携帯を取り出すと、電話を掛ける。
「スイマセン、剛ですけど・・光一は?」
かなり前に帰ったという返事。
「なんか、松岡君と話してたみたいだけど。今日はもう仕事無いから食事にでも いったのかなぁ。」
車の所で別れたから後は良く分からないとの返事。それでも一応聞いてみる。
「松岡君の携帯分かりますか?・・・そうですか・・どうも」
「ちゃんと仕事をしろ!ボケ!」 切れた携帯に向かって怒鳴ると、知っていそうな人 を探して電話を掛けまくる。
ようやく、何処いらへんに住んでいるのかを聞き出すと、エンジンを掛け、車を飛ばす。

・・・・・つよし・・ごめんなぁ。 俺、知らんうちにオマエの事 傷つけてたんやなぁ。
オレがきっつい事言うてもちゃあんと受け止めてくれたのって オマエだけやったのになぁ。
それに甘えてワガママばかり言うて・・・・・ ホンマに自分・・。ヤな奴だったわ・・
こんなオレ。・・もう許してもらえんやろな。 これは自業自得や。 もう、オマエの隣立てへんよ。
オマエがいいひんかったら俺・・・・

暫く鳴っていた呼出し音も切れ、静かになった携帯を握りしめると、立てた膝に深く 顔を埋めてゆく。
沈み込んでゆく想いに、裸足の足から這い上がってくる不安と冷たさ。
好きでもない人からされた行為。・・・・嫌悪感が募のってゆく。

 公園の脇に車を止めると、暗い街に相方の姿を見つけるべく掛け出してゆく。
・・一体アイツ何してんねん。こんな心配かけよって・・
口では悪態をつくが、長年連れ添った相方の今にも壊れそうな声を思い出すと 不安が頭をもたげてくる。
 植込みの影に紛れるように相方はひっそりと座っていた。
足音を立てて近ずくと
「ちょぉ自分、呼び出しといてなんや?」
あんな不可解な電話で探し出してくれた優しさとは裏腹の鋭く尖った声が 突き刺さる
 「剛・・」
幻聴かと思った。まさかあんな電話で来るとは思ってもいなかった。
すっと・・・・ここ暫く収録以外では口もきかなかった相方が心配そうな 顔で立っていた。
 飛ばしてしまったコンタクト。レンズ越でなければ相方の顔もよう見えない。
「夢とちゃうんか・・・」
無意識に伸びる腕・・・・
伸ばした腕は相方に払われると、それが夢ではない事だと気付かせる。
「やっぱ、俺はコイツに縋る資格なんてあらへん・・」
宙に浮いた腕を抱え込む様にまた、俯いてしまう。
「なんやねん、さっさと立たんかい、話あるんやろ。コンな所でするんか?行くで」
声を掛けると動く気のない相方の腕を掴む。
「こう・・いち・・・こっこんなん冷たなるまでなにやっとんじゃ!」
「ぁ・・・・つよし・・・」
かけがえのない相方の腕に包まれると幻じゃない事を気付かせる。
「ヤ、ヤメ。離して。離せって。」
震える唇から出る悲痛な叫び。 自分の身体に残る無残な陵辱の痕。 相方に優しくしてもらう資格のないオレ。 思い出すと身体が震えてくる・・・・・
「何言うてんねん。こんなに身体冷たなって。 行くで。ほら、立ちいや」
手を引いて立ち上がらせてくれようとするが、陵辱と何時間もこんな所で
座り込んでいた身体は、いうことを聞かない。
 それでも何とか、相方の 肩に腕を回し支えてもらうと一歩踏み出す。

「ぁ、っう。」
小さく悲鳴を漏らす。
その声に改めて相方の姿を見ると、10月にしてはだいぶ冷え込んだこんな夜 に、
ジーンズは穿いているもののシャツ一枚、どうしたのか、裸足。
ガタガタと震え足元もおぼつかない相方の姿に驚き、自分よりいく分が背の高い 相方を抱き上げる。
その身体は、以前よりもずっと、ずっと、軽くなっていた。

 言葉も交わさず、視線すら合わせようとしてくれなかった相方の思いもかけない 行動にとまどいつつ、
心の奥底から這い上がってくる不安な気持ち。
 軽い軽い相方をそっと車のシートに降ろす・・・
 こんな今にも壊れそうな光一の姿なんて・・・触れたら粉々になってまう・・  どうしたん?何があったんや? なぁ光一・・・

  問い詰めてみたい気持ちを押さえ、静かに車を出す。

 車の助手席に凭れ、押し寄せてくる不安にギュッと目を瞑って耐えている姿は、
ステージや仕事の時とはうってかわって、小さな子供が、母親とはぐれた時の ような姿に写って見える。
叫びたい、泣いて助けを求めたい、誰かに抱きしめて 貰いたい・・・
そんな相方の痛々しい姿に、小さくため息を洩らす。

 幸い、夜の道路はアクシデントも無くマンションに着く。駐車場に車を止めると 小さく声を掛ける。
「着いたで・・」
その声に驚いたように目を開けると、ゆっくりと剛の方を振り向く。
「あっ・・・」 声にならない小さな悲鳴を洩らすと、ドアに手を掛け開けようと いたずらにレバーを引っ張る。
オレよりも車のことよう知ってんのに、ロックを外す事すら思いつかないらしい。
「光一・・・」
落ち着かせる為に呼んで見る。
なおも暴れようとする相方に、
「こうちゃん・・・」
懐かしい呼びかけ。
「こうちゃん、大丈夫だから、な。オレんとこで、暖まろうな。」

 「こうちゃん」・・・・いつの頃からだろう、そう呼ばなくなったのは。
無邪気に笑っていられたあの頃。いっつも二人で、遊んでいたあの頃。
遠い過去。心に流れ込んでくる、幸せだった頃のキオク。

 一瞬動きの止まった俺。その前を剛の腕がロックを外す為に伸ばされる。
この腕で抱きしめて欲しいと、思う。このままギュッってして欲しい・・
だけど、この身体では、もう求める事なんで出来ない・・出来やしない・・・ ・それは、俺のねがい、のぞみ、欲望。
カチッ。ロックを外して引っ込む腕を名残り惜しそうに視線が追う。

「さ!行こか。」
声を掛けて車を降りると、フロントを廻って助手席の方へ向かいドアを開けた。
「足、冷たいやろ。おぶったるわ」
相方の申し出に「歩けるから」と小さく応えると、冷たい駐車場のコンクリート の上にそっと足を下ろす。
ドアにしがみつくようにして立つと、まだ、身体が小刻みに震えている。 ふいに手を掴まれると、有無を言わせず抱き上げる。
さっきも思ったが、本当に軽くなってしまった相方・・・ 片手でロックを掛けると、部屋へと向かった。


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